作りすぎのムダ 2つのタイプ (7つのムダ)
皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。さて今回は、7つのムダの中でも一番悪いとされる「作りすぎのムダ」に関してです。
作りすぎのムダが、なぜ最も良くないムダなのかのおさらいと、「作りすぎ」と言ったときに2つのタイプがあることのご説明となります。
最悪のムダ
7つのムダに関しては、すでに何度か取り上げました。
今は、「Non-utilized talent」(未活用の人材)を加えた8つのムダと言われたりもしますね。
まずはおさらいですが、この7つのムダの中で最も良くないムダが作りすぎのムダになります。なぜなら、他のムダを発生させるうえに、それらが生じていることも覆い隠してしまうからです。
- 「つくりすぎのムダ」は、「在庫のムダ」を生む。
- 「在庫のムダ」は、その不必要な物品のための「動作のムダ」や「運搬のムダ」を増やす。
- 作りすぎている間は、従業員が忙しく動き続けているように見えるために、「手待ちのムダ」見えなくなる。
- 品質問題が発生したとき、モノが多すぎて容易に真因特定ができない。あるいは多くの在庫から良品を探し出して対応してしまうため、これまた真因の解決という最も重要な手順から遠のいてしまう(不良を作るムダがなくならない)。
- つくり過ぎのムダを「ムダ」と思わないマインドセットは、必ず同じマインドで、必要以上の「加工のムダ」も行う温床となる。
- 作りすぎる=>仕掛が増える=>リードタイムが長くなる=>工場のキャッシュを圧迫する。
- 作りすぎる=>仕掛が増える=>見えない化が進む=>ありとあらゆる作業に時間がかかる=>リードタイムが長くなる=>工場のキャッシュを圧迫する。
と、サッと上げるだけでこれだけの悪さを引き起こすものであることが確認できます。
このような諸悪の根源をどうするかに頭をひねった挙句、開発されていくのが「後工程引き取り」や、その実現のための「カンバン」なのですが、それは今回割愛。
2タイプの作りすぎのムダ
作りすぎのムダとそこから引き起こされる他のムダの悪さ加減を確認したうえで、今度は作りすぎのムダの2つのタイプに関して見ていきましょう。
トヨタ生産システム(TPS)といえばJIT(ジャストインタイム)ですね。
「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」生産することによりノンストック生産を実現させているわけです。
この作りすぎのムダは「不必要なものを、必要でない時に、必要以上に」生産するが故に発生するムダです。
そんなの分かってるよ、という声が聞こえてきそうですが、実際の現場に行ってみると、この「必要でない時」にという考え方がまるで違うことに気づかされます。
例えば山のようにある仕掛を前に「これはいつ必要なんですか?」と聞くとしますね。そうすると実際に必要なのは「今」ではなく、「将来的に」であることがとても多い。
そうするとこちらとしては「『必要でない時』に作っていることになりませんか?」と問いかけるわけですが、たいていは「いえ、そうではないです。いずれ必要になるので必要な時です」という答えが返ってきます。
人や機械を遊ばせていくわけにはいかない、だから手待ちなど発生しないように(稼働率を上げるために)とにかく前もって生産を始めてしまう。
あるいは単純に現場がそのように判断している。
TPSでいうこの作りすぎのムダは、単純に量だけのことを言っているわけではないのです。むしろこの「早く作る」という、現場に起こりがちな現象をいかに止めるかを目的として7つのムダに入っているといっても過言ではない。
ところがこの7つのムダが広く知れ渡るにつれ、こうした本質的な部分は忘れ去られて、「必要」に関する定義が変わっていってしまったのでしょう。
売れないものは作らない、というのは当たり前で、どんな工場もそんなことはしないはずです(量の側面)。しかしながら「今必要か」というこの「早さ」に関する部分は前提から抜け落ちてしまっている場合が非常に多いのです。
なので、どうせ作るから先に先に…という早く作るが故の「作りすぎのムダ」が発生していくわけです。
なぜ早く作るのか
ではなぜ早く早く作ってしまうのか。
それにはいくつかの理由が考えられます。確認しておきましょう。
稼働率は高いほうが良い?
機械や人を遊ばせておくのはまかりならん、という間違った生産性への考え方が根底にある場合があるでしょう。
従来の会計的にはそうすることが是とされていますが、このような考え方は当然早く作り、不必要な仕掛を増やしていく温床となるものです。
手待ちがあるなら待たせておけば良いのです。無理に生産しなくとも、やれること(機械のメンテナンス、トレーニング、カイゼン、他部署の応援etc.)はいっぱいあるはずです。
また手待ちのムダがあるということは、そこにも生産計画やラインバランスなど様々問題解決の機会があるということを意味します。これも一種の見える化です。
仕掛は資産?
これもまた従来の会計の理屈から発生している間違った考え方ですね。TPSにしろTOC(制約理論)にしろ、本当に大事にしなくてはいけないものはキャッシュであると認識しています。
それはつまり売れたもの=代金を支払ってもらえた・もらえるものを起点にして物事を考えているということになります。
いくら財務諸表上お金があっても、実際に物を買ったり、給料を払ったりする現金がなくては、会社というものは立ち行かなくなります。
大事なのは現金。つまりお客様が支払ってくれるかどうかです。このことを前提として考えれば、「材料を買ってから、生産、お客様にお届けして、代金をもらうまでのサイクル」をいかに短くしなくてはいけないかが理解できるはずです。
この時大量にある仕掛は、見えない化で生産を阻害し、あるいはその存在自体が長いリードタイムを生み、上記の「お届けまでのサイクル」に真っ向から歯向かってくる大きな障害になるわけです。
これはちなみに原材料にも当てはまることですね。「多く買えば安くつく」という誤った考え方は多くの原材料在庫を生みます。
きちんとコストを検証してみれば、大量買いが生み出す様々なムダが、いかに生産やコストを逆に圧迫するか理解できるはずなのですが、目先の安さにとらわれている場合が非常に多いというのが、これまでいろいろな現場を見てきた私の感想です。
「仕方ない」の理論?
あとよく見られるのが、「これは仕方ないんですよね」という状態です。
これは仕掛だけに当てはまることではないのですが、こういう問題があって、どうしても仕掛を持たなくてはいけない、仕方なくこのようにしているのです、という理屈です。
例えばある工程の生産能力に合わせると、どうしても作り置きをして対応しないと生産が間に合わなくなる、なので仕方なく仕掛を設けている、というような場合ですね。
それは生産計画であったり、人員の問題であったり、段取り替えにかかる時間であったり、欠品であったり様々な場合があるでしょう。
ただそうしたものを、「仕方ない」として受け入れ、真の問題解決を忘れてしまった時から、この大量の仕掛、長いリードタイム、その他のムダの発生は始まります。
そして早く早く作る「作りすぎのムダ」も絶対に止むことはないのです。
ポカヨケやSMEDを考え出された、かの新郷先生も、「この仕方ない」という考え方が問題であると述べられています。
あらゆるムダを排除しよう、問題解決をしようとして、この「仕方ない」という言葉が聞こえてきたときは、真因を解決することを忘れて、現状に甘んじるほうが楽だからこうなっているサインだと覚えておくとよいでしょう。
ちなみに英語表現だと
- It is what it is(これはそういうものだ=だから仕方ない)
- We have no choice(ほかに選択肢がない)
- We cannot do anything about this(これに関しては他にやりようもない)
などの言い回しになります。
まとめ
というわけで今回は、7つのムダの中でも一番悪いとされる「作りすぎのムダ」の関してでした。作りすぎのムダがなぜ最もいけないムダなのかのおさらいと、「作りすぎ」と言ったときに2つのタイプ、「量と早さ」があることをご説明しました。
実際に問題にすべきはこの「早く作ろう」とすることのほうなのです。
なぜ早く早く作ろうとしてしまうのか?
間違った会計上の考え方から、抜け出せないでいる場合もあるでしょう。
またそこには問題があっても、それは「仕方ない」と考えている心が存在します。そしてこれは長年の経験や慣性で、常識のようになってしまい、もはや変えるべきものとして認識すらされないのです。
みなさんもぜひ一度、自分たちの仕事場を見つめ直して、この「仕方ない」を探し出してみてください。
賭けてもいいですが、絶対に存在していて、そして必ず変えられる=カイゼンできるもののはずです。
自分たちで見つけられないならば、外部から人を呼ぶことも有効です。コンサルタントはこういうところに使うといいでしょう。目指すは全体最適化、流れで生産することです。
今日も読んでいただきましてありがとうございます。
ではまた!
復刻版。TPSの理解にかなり役立ちます。『トヨタ生産方式』と合わせて読みたい。