改善を定着させるには How to Get Kaizen Entrenched
改善活動をして何かが変わったとして、現状どこまで、その良くなり具合を維持できますか? これは結構頭の痛い問題じゃないでしょうか? いろいろやってみて、結構いい結果が出たにもかかわらず、何か月か経ってみると、あら不思議、元通り、なんていう経験はないですか? これしかも海外で改善をやると、顕著に出ます。とても悲しいです。
そこで今回は、何をすれば変化させた状態を維持して、次への改善につなげていくことができるのかを考えてみたいと思います。その名も「行動原理マネジメント」です。
行動原理マネジメント
以前もお話しましたが、人間というのは変化を嫌う生き物です。これは、怠惰だとかやる気がないというよりは、本当に大脳の生理的な反応なのである意味致しかたない、で済ませるわけにもいかないのですよね。強い体質の組織・現場を作っていくには。ですのでスモールステップの原理という有名な考え方は、どこにおいても有効です。ただ、時間がかかるわけで、なかなかうまいこと使えないときもある。
そこで今回紹介するのが「行動原理マネジメント」という考え方です。これ、結論から言うといたって簡単で、「いいことをすれば、いいことが起きる。悪いことをすれば悪いことが起きる」というオペラント条件付けに基づいた方法を踏襲したやり方です。
皆さんもどこかで、パブロフの犬の実験を聞いたことがあると思います。Wikipediaには、
実験内容:パブロフが行なった実験は、以下のようなものである。
1.イヌにメトロノーム(ベル・ホイッスル・手拍子・足踏みと言う説もある)を聞かせる。
2.イヌにえさを与える。
3.イヌはえさを食べながらつばを出す。これを繰り返す。(上記の二つのプロセスを条件付けという)
4.すると、イヌはメトロノームの音を聞いただけで、唾液を出すようになる。
と説明があります。すごく有名ですよね。で、これのネズミを使ったバージョンの実験がありまして、それが以下のような流れの話になります。
箱の中ネズミを入れます。この中にはレバーがあって、レバーを押すとエサが出てくる仕組みになっています。で、ネズミは最初、そこにあるレバーを無意識的にかじったり、触ったり、押したりします。暇なんでしょうね。で、たまたま偶然レバーを押したとき、エサが出ます。大喜びです。でもまだ理屈は頭の中でつながっていません。齧歯類ですから。で、また最初のようにいろいろやってます。そうするとまたエサが出てくる。うれしい。そんなことを何度も繰り返していくうちに、ついにネズミは学びます。「これ押したらいいことあるんじゃね?」。これが条件付けによる学習です。しかも「この行動が自発的である」、というここがポイントなんです。
で、逆のパターンもありまして、もちろん嫌なことが起きると、その行動はとらなくなっていきますよね。熱いもの触って火傷(痛い思い)して学ぶという話です。子どもの教育なんかもそうですけども、悪いことをしたときにきちんと叱る=痛い目見る(別に体罰というわけではないです)ということを通して、やってはいけないことを子供は学んでいくわけですよね。そしてこれも、行動は自発的です。
ABC分析
ということで、構造はいたってシンプルですがもう一度。
「いいことをすれば、いいことが起きる。悪いことをすれば悪いことが起きる」という状態を作り出してしまえばいいわけですね。
これを裏付ける考え方がいわゆる「ABC分析」と呼ばれるもので、先行条件(Antecedents)、行動(Behavior)、結果(Consequences)の頭文字をとってABC分析と名前がついています。簡単に言うと人は何かの先行条件(動機)があって、何らかの行動(Behavior)をとりますね。で、その行動に応じていろいろな結果(Consequences)が生まれてきますが、この理屈が言っているのは、この行動の結果が、その人の次回の行動選択の条件となっていくということなんです。
単純ですよね。人も動物も子供も大人も、いいことが結果として起きれば、その行動をとり続けていきますし、悪いことが起きれば「やめとこうかな」、と思うのが普通です。で、この理屈を改善や変化の維持に使っていこう、そういうふうにマネジメントをしていこうというお話になります。
システムとマネジメント
これはすなわち、何かを変化させたいなら、それに応じたシステムも同じく変化が必要という至極当たり前の話なのです。ポイントはもちろん、その特定エリアやラインの改善云々もそうなんですが、改善していくといいことがあるということが、組織の皆さんによく理解されているかということなんですね。GEのマネージャーになるためには、少なくともシックスシグマのBlack beltは持ってイなといけないみたいな。GEでは、会社方針にそぐわない下位20%は、当たり前のように退社勧告を受けます。「いいこと、悪いことが」クリアです。
よく「場改善しても定着しないんだ、困ったな」んて言葉を耳にしますが、それは変化を起こしてあとは現場の方の努力次第としてしまっているからでは、と思ったりしますね。それではいわゆる気合で何とかしろという精神論と何も変わらなくなってしまう。現場の方は毎日の作業でいっぱいいっぱいなわけです。ひとつの変化も彼らにとっては1,000回、10,000回の作業変化かもしれないわけです。なので、ポカヨケというものを作って、現場の方がいちいち考えたりしなくても、もう自動的にミスが生まれない、あるいは不良が起きない仕掛けを作っていかなくてはならない。
改善はやった、後は現場の維持する気持ち次第、ではなくて、マネジメントのほうで、そもそもそれが自発的に続けていってもらえるシステムを作っておくことが大事になってくるんじゃないかと。それが、行動原理マネジメントと仰々しい名前がついてますけど、そういう管理の部分なんですね。
大きくは、「改善を率先してやればいいことがある、やらないとけっこう厳しい状況が待っている」、という会社の方針であるでしょう。また小さな改善であっても、例えば5Sの最後のSで「躾」なんて呼ばれてる部分も、こと言葉を変えれば、「ネズミが自発的にレバーを押すようになった、何故ならいいことが起きているから」ということにほかならないと思うのです。
要は、マネジメントがいかに真剣に改善というもの、変化の定着ということに取り組んでいるかだと思います。「人を責める前に、システムを見直そう」、これもトヨタの考え方です。
例えば、5Sがものづくりで基本であるならば、それを評価するシステムが何なのかを考えなくてはいけない。トップは本当にそれを気にしていますか? トップがそれを気にしているなら、現場のマネジメントはそれを有効化・実行化できるだけの管理をしていますか? どのくらいの頻度でしていますか? やるといいことはありますか? やらないと悪いことはありますか? 愚直にそれらを実現できるだけの努力をしていますか?
まとめ
いかがでしたでしょうか? 「行動原理マネジメント」。言われてみればどうということのないことなんですが、できてないんですよ。だいたい改善が定着しないといってるところでは、これらができていない。で、それはそもそも、現場の問題ではない。マネジメントの問題です。だから、行動原理マネジメントっていうんですね。うーん、どうせやるなら効果的にやりましょう。がんばりましょ! そうです理想論です。でも理想がないと改善始まりませんから。