方針管理とタグチメソッド(品質工学)
皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。
最近、タグチメソッド(品質工学)で有名な田口玄一先生の書かれた自叙伝、「タグチメソッド わが発想法」を読む機会がありました。
品質工学がいかにして、あるいは何を目的として作られたのか ― 田口先生が人生を通して、成し遂げられたことが語られている本です。
しかしながらその中に、方針管理のコンセプトを説明するとても良い部分見つけましたので、今回こちらをご紹介してみたいと思います。
田口 玄一氏略歴
田口 玄一(たぐち げんいち)氏は、品質工学(タグチメソッド)の創始者として有名です。
Wikipediaには、1924年1月1日 生まれとされていますが、当時の数え年を避けるため、1923年暮れに誕生されたのを、ご両親が年明けまで出生届けを保留したようだ、という話が本の中で語られておりました。
残念ながら2012年6月2日に亡くならておりますが、その貢献度は、類まれなるものがあります。
以下Wikipediaからの抜粋です。
タグチメソッドは1980年代のアメリカ合衆国の技術停滞打破に大きく貢献した。これにより「アメリカを蘇らせた男」と呼ばれ[、日本人として3人目のアメリカの自動車殿堂入りを果たした。また、日本でも多くの支持者によって品質工学会が設置されており、2年間で200事例に適用し、100億円以上の効果があった企業もあると言われている。
アメリカの自動車殿堂入りは、本田宗一郎氏(ホンダの創業者)、豊田英二氏(初代トヨタ自動車会長)に続いて、当時は日本人として3人目の快挙でありました。
当然日本での貢献も、綬褒章(らんじゅほうしょう)という、「会社経営、各種団体での活動等を通じて、産業の振興、社会福祉の増進等に優れた業績を挙げた方」(内閣府)という勲章をいただいていることからも、うかがい知れるかと思います。
おそらく本人は、あんまりこういう肩書は気にされない性格であったのではと推察しますが。
田口先生の功績
田口先生の功績については、Wikipediaなどでざっくりと知ることもできますし、品質に関わる方であれば、必ず聞いたことのあるお名前だとも思いますから、ここでは述べません。
ただ田口先生は、この著書の中で、先生が半世紀以上をかけて取り組んだ仕事は、究極的にはたった二つに集約されると述べておられます。
- 直行表を使いやすくしたこと
- 機能のバラツキを減らすため、データの取り方と解析手法を実験計画法に織り込んだこと
です。
かなり統計的分野のお話になることがわかりますね。
先生は、一言で言えば、「自由の生産性の追求」、つまり安い価格でより品質の良い製品が手に入れば、それだけ他に割り振れる「自由」が増えるということ、これを主眼にお仕事をされたと述懐されております。
そのために、技術的な問題の解決に貢献したのが、生涯のお仕事の目的・目標であったとのこと。
学問としての統計ではなく、より実務に役立つ運用を考え出し、その結果多くの企業が計り知れない便益を享受したというのが、先の殿堂入りであったり、褒賞受賞の理由となったわけですね。
方針管理とタグチメソッド
以上、田口先生の業績を踏まえたうえで、ようやく(笑)「方針管理とタグチメソッド」です。
田口先生はこの著書のあとがきのなかで、戦略・戦術・戦闘の違いについて言及されているのですが、それをいくつか引用してみたいと思います
- 「戦略(ストラティジー=strategy)は個々の作戦ではなく、大規模、長期にわたる手段である。」
- 「企業の競争力は新製品や改良品の開発生産を他社より効率良く行ったり、準備をしておくことである。」
- 「具体的な目標に対する開発設計は技術者の仕事で、戦術と同じタクティクスである」。
- 「マネジメントの仕事は(中略)、テーマ選択と広い範囲の開発研究に役立つ方法を担当者に与えることである。」
- 「半世紀以上にわたって私が開発してきた手法は戦術 ― 個々の専門的な商品設計ではなくて、全商品に共通な戦略である評価法のパラダイムを与えたことである。」
これらに加えて、製品が市場によって評価されること、評価と評価法そのものの重要性を強調されております。
方針管理は、企業の進むべき方向を決め(戦略)、それをどのように具体的に達成して行くのかのアクションに落とし込み、その活動を定期的に評価しながら進めていくものです。
その意味において、いわゆる戦略の実行を確実にするためのパラダイム(規範)を組織に与えていくものと言うことができるでしょう。
読了後私の心に浮かび上がったのが、いわゆる方針管理のPDCAのC/A(チェックとアクト)に当たる部分も、市場からの評価を抜きにしては語れないという点でした。
定期的に行われる方針管理のモニタリングで、これまでのところアクションが的を射たものであったかどうかは、結局のところは市場=お客様からの評価でなくてはならない。
製品やサービスを売って利益を得ている以上、求める方向・アクションがお客様に更なる価値をお届けする、いわゆる「生産性の追求」につながっていなくては、根本的に意味がないということになります。
直行表や実験計画法というと、ともすれば非常に工場・製造の内内の活動として捉えられがちですが、タグチメソッドは究極的にお客様に付加価値を届けることを主眼にしていたという、その思想の部分が垣間見えた今回の読書となりました。
当たり前と言えば当たり前なのですが、戦略・戦術(方針管理)の展開も、この視点なくして組織としての成功はないのだなと思った次第であります。
方針管理とタグチメソッドをセットにした考察というのは、あまり見たことがありません。が、田口先生の考えておられた品質工学は、組織戦略決定の際にも、その根本にある思想を活かすことができるのではと感じました。
それだけ本質を突いたものであったということなのでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「方針管理とタグチメソッド(品質工学)」と題しまして、タグチメソッドの生みの親、田口先生の思想を通して方針管理のあるべき姿を確認してみました。
方針管理は、もともと品質のための全社的取組として生まれたものですから、品質向上活動との親和性が高いのは当然です。
しかしながら今日の方針管理は、より包括的な組織変革のための仕組みととして進化しています。
特にこのように変化の激しい時代の中で、変化し生き残りをかけていくには、組織としてのあるべき姿を追い求めながら、絶えず時代に適応し進化していくことが求められます。
「企業の競争力は新製品や改良品の開発生産を他社より効率良く行ったり、準備をしておくことである。」
方針管理は文字通り、行く先を定めて行動するための仕組みです。そしてそこに内包されるPDCAは、アクション実行を確実にするための要です。
その作成と評価においては、「市場からの」という視点を忘れず、組織としてのお客様の「自由のための生産性の追求」が、そのあるべき姿なのではと思います。
今日も読んでいただきましてありがとうございました。
ではまた!
読み物としてもたいへんおもしろいです。