息子へ、パパから伝えておきたいこと その7
To my son, things that Papa wants to tell you, Vol. 6
前回からずいぶん時間が空いたね。
このあいだは、「安全に関することは妥協しちゃいけない」って話をしたね。
安全面、それからもちろん品質に関することはビジネスの世界でも、死活問題だ。この二つのことは、将来君がどんな仕事をすることになっても、いつも気を付けないといけないよ。
さて、サウジをいよいよさることに決めた2018年6月。
いろいろ悩んだけれでも、結局パパとママはサウジを出ることに決めた。
きっかけは、覚えているかい? パパが大きな車の事故にあったんだ。パパの乗ってた車がひっくり返って廃車になっちゃったときのこと。
あれはあるラマダンの日だった。パパは、当時の上司のAnwarさんと、その日辞めるか辞めないかでずいぶん議論した。Anwarさんはありがたいことに、「もっといて、働いてください」と言ってくれていたよ。
2時間くらい話してたんじゃないかと思う。そこまで言うなら、そうしようかな、くらいの気持ちになって、でもどうしようなんて思いながら、会社の駐車場を出た。
いつものように、同じ道で、家まで帰ろうとしたときそれは起きたんだったね。
結果として、パパ一人が乗ってただけで、車は大破したけど、大きなケガもなく。
でも運ばれた病院に駆け付けたママは、「もういいよ、日本に帰ろう」と言って泣いていた。うん、そうしよう、と決まった瞬間だったように思う。
あの時も、いろんな人が助けてくれた。Elmerさん、Ismail、Ashraf、それからたまたま事故現場に居合わせたイエメン人のお兄ちゃん。会社の人たち、君のGod parentsの皆さん。領事館の人たちも。数え上げるときりがない。本当に助かった。
異国の地で事故を起こす(いやパパは100%悪くなかったけど)ことがどれだけ大変かわかった。そのあとの手続きの、さらに大変だったこと。
それに、こういう国では君を育てたくない、とも思ってしまった。あれが結局最終的な決断の引き金だったね。
でも今もこうして生きている。ありがたい。
エジプト旅行
そして最後のラマダンが明けたとき、家族でエジプト旅行に行った。
サウジを離れたら、中東に来ることもそう簡単ではなくなるし。いい機会だったね。
君は図鑑で見た、ピラミッドやスフィンクスや、ミイラに初めて会ったんだよね。パパもママもだけど。
とても楽しい旅だった。
それより少し前にサウジを離れたIsmail一家にも久しぶりに会えた。AyaとかTiyaとかと一緒に、とても楽しい時間を過ごせたよね。
最初はナイル川のほとりのホテル(ケンピンスキーだった)。それからピラミッドの真ん前のホテル。とても愉快なホテルのスタッフがいたね。「マイ、フレンド―」とか言って、一生懸命英語で話しかけてきて、君もとても喜んでいた。
そして、暑かった。ガイドさんも、この時期は、ピラミッドを見て回るのにいい時期ではないって言ってたくらい暑かった。そしてピラミッド周辺は、暑いので臭かった。馬車が多いから、いろんなところでお馬さんはトイレをしていたね。覚えているかい?
観光客とみると、10倍の値段でポテチを売ろうとするあんちゃんとか、いたるところにあるマンゴー屋さんとか。懐かしいね。君は長い人生の中で、また行くことがあるだろう。今度は走り回らずに、ゆっくりエジプト博物館も見てまわるといいよ。
Ismail一家とは、「今度は日本で会おう」と約束して帰ってきたけれど、実現したかな?
ついこの間、君はTiyaにvoice messageを送っていたね。
帰国
9月、ついに帰国。
車がなくなったから、いろんな方のお世話になって、家財道具は売るか、あげるかして、アパートもすっからかんになった。
ママはこの家財道具売却のときも、本当に積極的で大活躍だった。あの大量のものがどんどん売れたのは、ママの手腕と言ってもいい。大したもんだよ、君のママ。
空港で、親しい皆さんとの最後のお別れ。
最後のJeddah空港。係の人に頼んで、写真もいっぱい取ってもらったね。
帰国してからも忙しかった。ママの在留資格の手続きもあったし。Jeddahからの荷物の受け取りなんかもあったし。
でも君は、そうした環境の大激変にも、いつも通りにすごしていた。君はすごいね。ストレス耐性が強いんだ。あのJeddah生まれだからね!
母親が受けたストレスは、胎内で子供に引き継がれて、生まれた子供もストレス耐性が強いんだそうだ。最近の研究でそう分かったんだって。
異文化、異言語、砂漠の国から寒冷地へ。アラビア語、英語、タガログ、セブワノ、日本語と言語も大きく変わった。でも君は大きな病気一つせず、乗り超えた。今後何か困難に出くわしたら、君が乗り越えたことを思い返してみるといい。たいがいのことは、些細な問題だと感じるはずだ。
そして、ついに日本で4歳になった。今度はいつもと違って、友達は誰も周りにいなかったね。また日本で1からの出発になった。
そして幼稚園
パパが新しい会社でトレーニングを受けている間、みんなで宮城県に住んでいたよ。
仙台のアンパンマンミュージアムとか、仙台市科学館とか覚えているかな。君、科学館大好きで、ある日なんか6時間位いたらしいね。楽しかったんだね。
そして北海道に帰ってきて、ようやくちょっと落ち着いた。
初めての冬、初めての雪だるま、初めての雪遊び。幼稚園にいって、ようやく日本の教育を受けることになった君。
今これを読んでいるとき、君はいくつなのかな。小学生くらいかな?
もしかするともう、パパママよりもお友達と遊ぶ方が楽しくなっているかもしれないね。
でもまぁそれでいいんだ。
こないだもね、パパママ君のことを話したんだ。
パパとママにできることは、君という飛行機が離陸するまでのお手伝いだ。十分飛び上がる力がついて、スピードが出てきたら、君は飛び立つ。
今度は自分で、自分の力で人生を飛んでいくんだよ。
そのために、パパママは、君が将来飛ぶのに必要な機能や、知識や燃料や大きな翼をもってもらおうと思っていろいろ頑張っている。
今だって、よちよちの君がこんなにもいろんなことができるようになったんだな、って感心している。でも、これからもっともっといろんなことが出来るようになっていくんだね。
楽しみだ。
パパママ、今もいっぱい君のこと褒めて、伸びていってもらいたいと思っている。そしたら今度は、どこかの段階で、自分で自分を褒めるようになっていって欲しい。
社会に出たら、あんまり人は褒めてくれなくなる。そういう時、他人褒めてもらうことのみを追い求めると、ちょっとたいへんになる。
だから、自分をいつもまるまる褒めて、自分を大事にしていってほしい。
それがあれば、結構いろんなことができると思うよ。チャレンジしたりね。
とりあえず、今回はここまで。
またそのうちに、時折こうやって手紙を書いておくよ。なんか気になったことや、伝えておきたいことをね。