TOCとTPS

皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。

さて本日は、かの有名なTOC(Theory of Constraints:「制約理論」)とTPS(トヨタ生産方式)の親和性や類似性について研究してみたいと思います。

TOCとは

エリヤフ・ゴールドラット博士のTOCは、ビジネスの生産性を最大化するための理論です。TOCは、ビジネスプロセスのボトルネックを特定し、その制約を取り除くことで、より効率的な生産性を達成することを目的としています。

TOCは、製造業からサービス業、小売業などあらゆるビジネスに応用することができ、生産性を高めるための有用な戦略の一つとされています。

カイゼンの世界では、お客様からの注文に始まり、お客様へのモノ・サービスの到着までの流れをバリューストリームといいます。このバリューストリームを一本のチェーンのようなものととらえ、その全体の強度を決めるのは一番弱いところ、つまり全工程の中のボトルネック(=制約)であると考え、そこを起点にカイゼン活動を進めていこうという考え方になります。

TOCの3つの指標

まず注目したいのは、生産性を測るTCOの三つの指標です。

従来の経営手法と異なり、たいへんシンプルではありますが、かなり効果的な指標を使って工場の経営を管理していきます。

以下がその3指標です。

  • スループット:販売を通じて作り出すお金 = 入金
  • 在庫:販売しようとするものを生産するため、購入・投資したお金全て = 製造プロセスのなかに溜まっている金
  • 業務費用:在庫をスループットに変えるために費やすお金全て = 入金を稼ぐための金

すべてにお金が入っていますね。

この中の下2つ、お金を払って得たもののうち

  • 売れるもの=在庫
  • 売れないもの=業務費用

と見做します。なので、例えば製造にかけた人件費は売れないので業務費用、機械・設備などは売れるので在庫になりますね。ということで、従来のコストの考え方とは違った視点を持たなくてはなりません。

こちらは「スループット会計」という分野で研究も進んでおります。

ちなみにこの「売れた金額」で生産性を測るというのは、TPSの中でも考えられていることです。いかに「指標上」の効率や「生産性」が高いことを誇ってみても、商売ですから、実際に売れなければお金は全く入ってきません。

倒産する企業の5割近くが黒字倒産(帳簿上は黒字なのに、キャッシュがショートして経営できなくなる)というデータもあります。

このことからも、財務会計上の指標では追いきれない、現実的な生産性を測るための指標が必要になることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

ちなみにTOCでは、工場全体の総費用をボトルネックの総運転時間で割って得られた金額が、スループット観点の本当のコストと言われています。

効率<お金

このように考えていくと、従来の労働生産性だけで製造現場をとらえていくことの危険さが浮き彫りになっていくはずです。

ゆえに、従業員が常に作業している工場は非効率とみなすことができます。上流工程から物が流れてきてないのなら、あるいは生産指示がないのなら、頼むから作ってくれるな、というのがTPSの生みの親大野耐一氏の言葉でありました。

彼が生み出した「7つのムダ」はよく知られていますね(今は8つと言われたりしていますが)。

以前もお話ししましたが、この中で最も避けなければならないムダは何だったでしょうか?

そうです、「作りすぎ」のムダです。

いわゆる従来の「効率」を上げるためには、人も機械も常にフル稼働していなくてはならない。でなければ、計算式上、製品一個当たりにかかるコストがあがってしまう = 「効率」が下がってしまうからなんですね。

ただその結果何は起こるかというと、

  • 常に忙しい層にしている従業員(手待ちが見えない)
  • いま必要ないのに生産される続けられる完成品や仕掛り(在庫のムダ)
  • モノがあふれかえって生まれる混乱や、追加の移動(運搬のムダ)
  • 隠れる不良(不良のムダ)

などがあげられます。

先に挙げたTOCの指標、特にスループットを上げていく観点からも、いかにおかしな状態になってしまうかがお分かりいただけるのではないでしょうか。

優先すべきは手元に入ってくるお金、その意味において「効率<お金」なのです。

大事なことは、工場の生産能力が、そのお金を稼ぐという目標に向かって管理されているのかどうか。誤った指標が誤った行動を選択させてしまうことに気付くべきということですね。

ボトルネックへの考え方

TOCやTPSを学ぶ上で押さえておきたいポイントがあります。それは、ボトルネックは悪ではないということです。

生産能力の関係上、ボトルネックというのは必ず発生します。これは仕方のないことです。

ただ大事なことはこれを悪だとして責めるのではなく、いかに全体最適を目指して助け合っていくことのかが問われるのです。

段替えに時間のかかる機械はボトルネックかもしれませんが、好きで段替えに時間がかかっているわけではないでしょう。非常に専門的なプロセスがボトルネックになるかもしれませんが、彼・彼女だって好き好んで仕事をそこで滞留させたいわけではない。

必要なのは、いかにボトルネックでの滞留を起こさせないようにするか。そのためにモノと情報の流れ図でボトルネックを発見したり、多能工化を考えたり、標準作業を考えたり、段替えの時間を短縮したり、いろいろないわゆるTPSで出てくるツールたちが生み出され活用されてきているわけです。

余談ですが、目的があってこうした手段が生み出されてきているのですから、目的の理解なしに手段ばかり学んでも何も意味がない。特に海外に行くと、ツール至上主義みたいな人たちに遭遇することが多いです。

ボトルネックの取り扱い方

さて、ボトルネックは悪ではないことが分かりました。ゆえにTOCでは制約(制約理論の制約です)と呼ぶのだそうです。

とはいえ、ボトルネックが滞留を生んでいることは事実ですから、ここのムダをできる限り排除していきます。

我々が現場でよく行うのは、ボトルネック工程には、「ボトルネックである」ということが一目でわかるような札やサインを設けて掲示すること。何があってもここは止めないのだということを、そこで働く人全員で共有できるようにするためのものになります。

他にも例えば、

  • 休憩時間の工夫(作業を止めない)
  • すぐ作る(売れる)必要のないものを作らない(ジャストインタイム)
  • 品質検査をその前で行い良品しか流さない(ポカヨケ導入)

あるいは、

  • ボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やす

これにはあえてその工程を外注に出したり、古い機械設備を引っ張り出してきて使うなどということも上げられます。

これらは当然従来の会計指標上は、一個当たりのコストが上がってしまう考え方です。ですが、先ほどもありましたスループット会計の「工場全体の総費用をボトルネックの総運転時間で割って得られた金額」で測りなおしてみると、全く違った数字が出てくることになります。

ボトルネックが向上に入るお金のすべてを握っている。このことに気付かなければ、見かけの生産性やコストに騙され続けることになるでしょう。

優先順位の見える化

これと同時に、非ボトルネック工程には余剰能力があるはずです。ですから、「必要な時に、必要なものを、必要なだけ作る」JIT(ジャストインタイム)の考え方に反しないよう、生産させない=休ませることも必要になります。これがリソースの本当の意味での活用ということになります。

管理者側のマインドセットも変わらなくてはいけないですね。

ボトルネックのペースに合わせてタイミングよく資材を投入すれば、過剰な仕掛や、モノがあふれかえって生まれる混乱なども防ぐことができるでしょう。おそらくは、早めの資材投入が現場に混乱と資材の山を産み出していたはずです。

所説ありますが、在庫の管理にかかっている費用は、在庫金額の15~30%と言われています。不必要なコストはここからも発生するのです。

JITを達成するために、モノと情報が一緒に流れる「かんばん」という仕組みが必要となってくるわけです。

ここにも、目的が何かを理解することが大事というのが見て取れます。かんばんという手段だけ導入しても、意味がないのですね。

TOCの5ステップ

TOCは一般的に、以下の5つのステップを回すことで工場全体の生産性(キャッシュを得る効率)を上げていきます。

  • 制約を見つける
  • 制約をどう徹底活用するか決める
  • 他の全てをステップ2の決定に従わせる
  • 制約の能力高める
  • ここまでのステップで制約が解消したらステップ1に戻る

このPDCAを回し続け、継続的にカイゼンしていくことが重要です。

ここで気を付けなくてはならないのは、昨日のカイゼン結果は、今日には陳腐化しているかもしれないということ。

大野耐一氏の言葉にも、「前日に自分がやった改善を、翌日見て腹が立ったら一人前だ」というものがあります。

うまくいくように改善したから終わりではなく、PDCAをまわし続ける中で、たとえ以前に改善した結果やシステムであっても、現状にそぐわないとわかればきっぱりと捨ててまた新しいやり方にチャレンジしていくことが必要になります。

成功体験への過剰な依存は、それ以降の発展を阻むというのは、ビジネスの世界でもよく言われていることですね。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回はTOC(制約理論)とTPS(トヨタ生産方式)の親和性や類似性について研究でした。

見てきた通り、両者は何らぶつかり合うものではありません。

TPSというと、長いカイゼンの実践から生まれた、手段や道具に目が行きがちです。それはすなわちその本質が理解されていないことを意味するのかもしれません。

そうした部分をうまく説明しているのが、このTOCということもできるのではないでしょうか。理論というくらいですから、再現性を求めて科学的に一般化されたということですね。

「個々の現象を法則的、統一的に説明できるように筋道を立てて組み立てられた知識の体系」(goo国語辞典

今回も読んでいただきましてありがとうございました。

ではまた!

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