モノと情報の流れ図(バリューストリームマップ) 未来図の書き方

VSM Future state mapping from Lean enterprise institute
皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポ―ト、Kusunoko-CIです。
さて、今月は私たち一家がサウジアラビアから帰国して、ちょうど2年の記念すべき月。
あっという間だったような、長かったような。
ただ確実に言えるのは、サウジ暮らしの約7年間は、今思い出しても本当に貴重な経験であったなーということです。チャレンジしてよかった。
リスクを取ることで、生まれる未来があるのですね。
さて、今回は「物と情報の流れ図(バリューストリームマップ)の未来図の書き方」です。以前「物と情報の流れ図(バリューストリームマップ)とは 書き方注意とヒント」というところで、「現在図」の書き方のお話をしました。
今回は、「あるべき姿=未来図」を書く際に、どう進めていくのかのご説明になります。
チームの皆さんで描いた「未来」に向けて、Projectを進める指針になるでしょう。
まず初めに考える「リーン(Lean)」ということ
さて皆さんの工場やラインの姿がどのようなものなのか、それは千差万別で一概にここでは言えませんが、おそらく改善できることはいっぱいあるのではと思います。
5Sはいかがですか?
見える化(Visual control)、例えば生産管理版での時間ごとの管理などはできていますか?
「あんどん」など、異常検知の仕組みはありますか?
作り置き(仕掛)はどの程度持っていますか?
ポカヨケは?
機械のレイアウトはどうなっていますか? 設備ごとにまとまって、運搬の手間や生産待ちのロットを生んでいませんか?
いろいろ思い当たるところはあるのではと思うのですが、いずれにせよ生産性の高い「Lean」な工程を作ることが目標になってきます。
Leanな工程とは、
To provide the best quality, the lowest cost, and the shortest lead time through the elimination of waste
あらゆるムダの排除を通して、最高の品質を、最低のコストと、最短のリードタイムで提供する工程になります。
そこで理想となるのが、製造スタートから完成まで、モノが一瞬も滞ることなく、常に付加価値をつける方向に変質しながら流れていく、という状態になります。
これがいわゆる「流れでつくる」ということです。
一個流し
そのためには、まずはバッチやロットで作る「まとめ生産」をやめること。
「一個流しと流れ生産」の実現です。
すべての工程が、タクト内で収まるようになっている。例えば工程がベルトコンベアでゆっくり絶えず動いており、作業者はその工程で与えられた作業(標準作業)を、与えられた時間(サイクルタイム)内に終了させて「流れに乗って」生産しているようなライン。
例えば富士通のPCラインなど、このように製造されていますね。
究極の理想を言えば、すべてがこのように、「流れ」で作られていればいいことになります。
「ス―パーマーケット」を作る
とはいえ、
- 機械の特性上どうしてもリードタイムが長くなってしまう
- リードタイムにもばらつきが生じて信頼性が低い
- 構造上(改善はしても)段取り替えに時間がかかるため、流れや一個で生産するのが不可能だ
こういう設備というのは、様々な工場の工程内に存在するでしょう。
であれば、その工程の後に「スーパーマーケット」を設置してみてはどうでしょうか(もちろん段取り替えの改善もしなくてはいけないですが)。
スーパーマーケットには、あらかじめ決められた量の在庫しか持つことはできません。
後工程が部品・製品を引き取ること(後工程引き取り=Pull system)がトリガーとなって、生産を開始する仕組み。
そのため、8つのムダの中でも最悪と言われる「つくり過ぎのムダ」を抑制することもできます。
基本は常に「後工程が引き取る」ということであり、「必要なものを、必要な時に、必要な分だけ」持っていき生産するというジャストインタイム(JIT)の原則が働くことになります。
その工程の引き取りの際に活用されるのが、いわゆる「かんばん」というものになります。
「かんばん」のための前提「平準化」
さて巷では、この「かんばん」さえ導入すれば、いわゆる「トヨタ生産方式」にできると誤解されていることもあるようです。
そうした考えから、このかんばんだけを試してみて、うまくいかないとか、かえって混乱を生んだ、などという失敗談を、私はそこかしこで聞いたことがあります。
このかんばんの仕組みを運用するためには、それ以前に「平準化」が達成されていなくてはいけません。
平準化はいわゆる生産量のばらつきを押さえ、量と種類の両面から生産計画が「ならして」ある状態を言います。
この平準化された生産計画というものが根底にあることにより、現場は工程を「流れ化・同期化」することができるわけです。
こうした生産計画が、工程の一か所に送られ、そこが起点となり生産ペースを決めていく。なのでこの工程を「ペースメーカー」と呼び、ここ以外に生産計画を送ることをやめてしまわなければ、この流れ化は達成できません。
勇気がいりますね。
ペースメーカーから振り出されるかんばんが、生産ペースを決める。ペースメーカー以降は先ほどの富士通のラインのような「流れ」で動くことがマストになります。
VSM 現状図と未来図例
まずはこちらの、VSMでよく使われるアイコンを見ていただいて。


VSMでよく使われるアイコン
ということで実際に現状図(Current state)と未来図(Future state)の例を見ていきます。
こちらLean enterprize instituteというサイトから拝借してきました。


現在図 Current state mapping
現状図に関しては生産計画(→)がMRPからすべての工程に伝達されているのがわかります。週に一回のようですね。
今現在は全工程、Push systemになっていて、作っては次工程へ押し込み押し込みという生産方式になっている様子(シマシマ矢印です)。
ちょっと見づらいですが、右下のボックス、トータルリードタイムは23日以上、付加価値をつける生産時間はなんとたったの188秒。いかに工程にムダが多い(仕掛が工程間でムダに寝ている)かがわかります。
これを目標としてどう変えていきたいのかが、以下の未来図になります。今回改善をする際の「あるべき姿」です。


未来図 Future state mapping
生産計画は、毎日になって、かつ最終工程の「Shipping」にのみ送られる。
平準化も目指しています(〇×〇×のアイコン)。
また合計4つあった溶接プロセス(Welding Process)と組立(Assy)は流れ化することを目標にしたようですね。なので、未来図では一つのボックスの中に描かれています。
StampingとWelding+Assy、そしてShippingの工程は、今回はまだ完全な同期化は難しいと判断、あいだに件の「スーパーマーケット」(逆さの“E”の形)を置いて対処するようです。
その間をつなぐため、先ほどお話したかんばん(引き取りかんばん、仕掛けかんばん、信号かんばんの3種)による後工程引き取り導入にトライする、という目標のようです。
タクトタイムは溶接+組立に60秒と記入されています。このお客様の要求を満たすための数字を基礎として、こうした流れでつくる改善を進めていくことになります。
肝心の右下、トータルのリードタイムは5日、付加価値をつける生産時間は166秒になるということで、特にムダな仕掛かりが改善されていくことがわかります。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 今回は、「物と情報の流れ図(バリューストリームマップ)の未来図の書き方」をお送りしました。
なかなかそれぞれの仕組みが理解できないと、導入・実現は簡単ではないと思います。
ただ、今は多くの書物も出回っていますし、まったくゼロからやる、ということでもない。リスクを取ってチャレンジする気持ちがあれば、トライする価値のあることばかりです。
まずは、「一個」で流しましょう。
そうすると各工程、cyclic(循環的)な作業を実現することができます。
それが作業の標準化を可能にし、かつ品質の向上にも寄与していきます。
そして生産計画がきちんと「平準化」されていくこと。こうしたカイゼンの上に「かんばん」システムが乗っかることで、まさに「Lean」な工程が生まれる基盤となっていくのです。
物の本によれば、トヨタでも、かんばんを全工場に導入するまで12年の歳月がかかったとのこと(「トヨタの現場管理」)。
改善は「倦まずたゆまず」。
出来ることからでいいのです。
まずは、VSMで現在を描きだし、あるべき姿を具体的にイメージすることで、そのギャップを埋めるアクションを取っていきましょう。
今描いた未来図は、皆さんお頑張りが実って、半年後、1年後には新たな「現在図」になっていきますよ。
そうしたらまた、さらに高みを目指す「未来図」を描いて、更なるカイゼンを行っていけるでしょう。
こうしてカイゼン(Continuous improvement)を続けていくのです。
カイゼンJourney、頑張ってください!
今日も読んでいただきまして、ありがとうございました。ではまた!