改善とは トヨタでの考え方 その2 What is Kaizen in Toyota Vol. 2
PDCAサイクル
前回は、カイゼンとは、Gap approachとMindsetというところまでお話ししたました(改善とは トヨタでの考え方 その1 What is Kaizen in Toyota Vol. 1)。
問題点がわかれば、対策を立てることはそう難しいことではないはずです。少なくとも問題が発生しているにもかかわらず、打つ手を取れず、無駄なコストや欠陥品、ひいてはお客様からの信頼失墜を、ただ手をこまねいてみている状態よりはずっと進歩していると言えるでしょう。
真因発見から対策を立て、行動に移し、計画に沿って解決していく。行動の結果から対策自体に変更が必要であれば、その都度見直し新たな手段を講じていく。最終的に解決された問題(ないしは課題)は、全従業員に周知され、 二度とそうした問題が起きないように徹底されていく。これが「PDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクル」を廻すといわれている問題解決、課題解決の基本的な行動様式です。
ちなみにこのPDCA、エドワーズ・デミング博士が生みの親とされていますが、それぞれ、
- Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成、
- Do(実行):計画に沿ってアクション、
- Check(評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価、
- Act(改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて調整し次のPDCAへ。
この4段階を順次行って、最後のActが次のPDCAサイクルにつながり、螺旋を描くように1周ごとに各段階のレベルを向上、継続的に改善を行うというモデルになっています。トヨタでは継続性を示すため、2回目以降のサイクルを「SDCA(Sustain)」という場合もあります。これ、どうでもいいように見えますが、改善後の維持(Sustain)がいかに難しく、特別な注意が必要であるかを表していたりもします。
最近では、OODAループなるものも出回っていますね。PDCAでは素早い判断と実行に時間がかかりすぎるというのがこのOODAのコンセプトで、時代がスピードを求めている結果だろうと思います。ついでなんでこのOODAは、
- Observe(観察):相手(ビジネスの場合では市場や顧客)を観察、
- Orient(方向づけ):上記の観察結果に基づき、状況を判断し、方向付け、
- Decide(決断):今後の具体的な方針や行動プランを策定、
- Act(実行):実際の行動
ということで、もともとは戦場の中で生まれてものであるがゆえに、機動性に優れているといわれています。でもこれもトヨタのやり方を参考にしたともいわれていますね。トヨタのPDCAは、方針管理からスタートしていて、そこに3C分析も含まれていますから。
カイゼンの極意
以上、問題解決のフレームワークに焦点を当てて簡単に流れを見てきました。メソッドそのものは全く難しくないはずです。シンプルであり、「まずは始めよう!」という気にもなりやすいため展開や実行が容易であり、またたとえ従業員の個別の能力に差があったとしても、ほぼ万人に教え使ってもらうことも可能です。しかもシンプルであるがゆえに、他のさまざまな問題解決の手法との親和性も高く、使い手次第でより高度により洗練された方法へと昇華していくことができる、汎用型問題解決手法、それがトヨタ式カイゼンに秘められた極意なのです。
そのため多くのの企業がこれを模倣し取り入れようと努力するのですが、実は、カイゼン導入と伴にもう一点同時に行われなければならないことがあります。
「ひと」
そのもう一点とは、「ひと」、すなわち従業員を育てるということです。
どんなに優れたシステムでも、どんなに汎用性の高いツールでも、最終的にそれを日々のオペレーションの中で活かし、かつ達成後は維持していくのは人間です。人間の力です。「何を当たり前のことを」という方もいらっしゃるかもしれませんが、カイゼンだ、5S だ、コスト削減だと表面的な(あるいは短期的に成果の出そうな)ことばかりに目を向け、この根本を外してしまっては、できる改革も挫折してしまいます。Kusunoko-CI、海外企業での現場カイゼンのサポートを通じて、これを身をもって痛感いたしました。その時行っていたカイゼン活動の内容自体は簡単なことなのです。難しい知識も、高度な道具も一切いらない、「当たり前のことを当たり前にしっかりやろう」という内容の業務改善内容だったのです。でも定着しませんでした。一時的に成果が出ても、定着化がなければそれはカイゼンの成功事例ではありません。
日本であればこの「当たり前のことを当たり前にしっかりやろう」はほぼ通用するのです。しかし、海外では「当たり前」がまるで違う。能力も違えば、育ってきた環境も、仕事に関する考え方もまるで日本人と異なっているのです。しかも、私の依然の会社は50か国もの異なった国籍構成の多文化組織でした。「カイゼン活動は人づくりンのためおシステム構築にあり」、これを実感した経験でした。
当時、失敗を繰り返しながら多くの書籍や情報をかき集め、Trial and Error、カイゼン活動の定着化に取り組みました。が、残念ながら、異文化環境でカイゼンを行うための資料はほぼ皆無で、カイゼン師匠と結構頭を悩ませたものです。
考えに考えた結果、「人をはぐくむ」、これが第一条件である、そのために何をしなければいけないのかを探り出さなくいてはならない。私は、「組織づくり」と人という観点からこの活動を根本的見直す努力をしました。真因はカイゼン活動の手法ではなく、組織の在り方そのものにあると思い至った瞬間です。カイゼン活動を従業員の自発的なアクティビティにしたければ、もっと大きな、根本的な組織改革が必要である、企業文化構築が同時進行で行われなければならない、そう確信したのです。
「モノづくりはひとづくり」
ここまで見てきたとおり、カイゼン活動は簡単なメソッドの積み重ねです。人がそれを受容し、実行し、達成事例がシェアされ定着していけば、確実に会社の利益を上げていけるのです。カイゼンは人です。海外では特に、この人材育成の観点を重視していかなくてはならないのです。故トヨタ自動車株式会社初代会長豊田英二氏は、「人間がモノをつくるのだから、人をつくらねば仕事も始まらない」と人材育成の必要性を強調したそうです。「モノづくりは人づくり」という考え方は、トヨタの教育・人材育成の理念として組織内で脈々と受け継がれています。これこそが彼らのカイゼン活動の根幹を支える哲学であり、多くの会社が一朝一夕には真似のできない部分でもあるのです。
世に出回っているカイゼン関連の情報は、どれも正しく、効果的です。しかしながら、その運営と実行は、隠れた巨大なシステム=人づくりのメカニズムを支えにして成り立っています。カイゼン活動始めるとき、考えてみてください。あなたの組織には変革を支えていけるだけの仕組みはありますか?