全体最適を目指すシステムと意識改革(TOCとチェンジマネジメント)

皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。今回はDX絡みのシステム導入と、それにかかわる人の意識改革の必要性についてまとめてみました。

人の意識を扱うチェンジマネジメントなしでは、こうした変革活動は成り立たない時代に来ているのでは? というようなお話です。

なぜ忙しいのか

カイゼンのお手伝いをする際、よく聞かれる声が「うちはい忙しくてカイゼンなんかやっている暇はない」という声です。

いろいろ話を聞いてみると、「Busy for nothing」な状態で、本人たちも場当たり的な対処に追われて、忙しさ=付加価値とはなっていないことには気づいていたりします。

もちろん根本的に人が足りなくなっているということもあるのでしょうが、現場も現場マネジメントもいつも何かに追い回されて、腰を据えてカイゼン活動をするということは考えられないという。

大変ですよね。

なぜそんなにも忙しいのか、真因を排除したいところです。生産に関してなら、次のようなことが言えるかと思います。

追い回されるのは「依存と変動」のせい?

工場における生産は、以下の2点を考慮に入れなくてはいけません。

  • 依存的事象:因果関係。原因と結果。後ろの工程は、必ず前の工程の作業後にしかできないわけだから、そこに依存の関係が生まれてくる。
  • 統計的事象:偶然によるばらつき。世の中の事象は必ずばらつきを持っている。例えば生産現場のサイクルタイムも、時に10秒、時には15秒であったりして絶対的な安定ということはあり得ない。

工場生産の場においては、この2つの現象が合わさった時の効果が重要になってきます。

つまり依存と統計的変動の重ね合わせで、前の工程に依存するスピードが遅くなった分の時間は蓄積していく、つまり前工程の遅れは、後ろの工程に行くほど、どんどんと蓄積していきますね。

工場の製品は、最後の一個が出来上がって納品数を満たすことで、お金に代わります。つまりTOCで重要視するスループット(キャッシュ)を手に入れるためには、最後の一個の生産が完了することがキーになります。

では、こうした依存と統計的変動の重ね合わせで遅れが出てしまった場合は、何をしなければいけないでしょうか。

遅れを取り戻すための様々な活動、例えば残業をする、普段であれば必要ない部品や何かを購入して間に合わせるということが起きうるはずです。これはそのまま生産のための在庫と業務費用(コスト)がかさむことを意味していますよね。
現場は、火が起きたら火消しに走る、いわゆる消火活動(fire fighting)でいつも大忙し。だが根本的な解決策は打たれていないので、常にこの状態を繰り返すことになります。

先述のような、うちは忙しくてカイゼンなんてできない、という現場のほとんどがこういう状態なのではないかと思います。

業務カイゼンとシステムのあるべき姿

ただこういうところでも、システムはきちんと持っていたりするのです。ただし、全体最適のためには動いていない

だいたいは、例えば購買関係の部署の「いっぱい買ったほうが安い」(MOQ)という思い込みのKPI達成のために使われていたり、現場の制約など考慮しない投入仕様になっていたりするものです。

もともとすべての稼働率を最大化しようとするのが、ERPやMRPのアルゴリズム。なので、各部署が、それぞれの稼働率を最大化しようとする部分最適の呪縛にとらわれている状態では、上記のような現象も起こるべくして起こるものと言えるでしょう。

これをボトルネック(制約)考慮のシステムへと変化させていかなくてはいけない。

納期から逆算して、なるべく遅く資材投入すれば、行程中の仕掛が減ってリードタイムが短縮できる、という事実に気がつかなくてはいけないわけです。

そのためには、製造工程の一番負荷の高いリソース(ボトルネック=制約)を、工程全体のペースを決めるペースメーカーとします。このボトルネック工程を絶対に止めないように「バッファ」を設けて、ついつい起こりがちな早すぎる資材投入を防ぐために工程全体をこのペースメーカーに足並みを揃えるようにつなぐことが必要になってきます。これをTOCでは「ドラムバッファーロープ」といいます。

これにより、システムにボトルネックを中心にしたスケジューリング機能を持たせることになります。

ただ、ボトルネックのスケジューリング自体は簡単ですが、そこにつながる多くの工程を同期することは至難の技。

工場のあらゆる工程で起きる様々なばらつき(欠品や機械故障、欠員など、いわゆる統計的事象)は、生産のリードタイムが短縮されればされるほど深刻になる。

そこでバッファーマネジメント機能を設けます。

実際の製造段階における不確実性に対処するため、各製造品が、現状どの程度余力(バッファー)を消費しているのかを見える化する機能です。そうすることでバッファー消費率が高く、かつ納期の近いものを優先して製造することが可能になるシステムが生まれます。

こちらの製品はバッファー消費率が高いので赤マーク、こちらはまだ安全圏でグリーン、などという感じですね。

「動き」と「働き」 

ただしこう下システムがきちんと機能するためには、手待ちのムダは手待ちのムダとして顕在化させる意識改革が必要になってきます。

もちろん作業者さんだけではなく管理者側も、あるいは経理に関わる人も、「生産性を上げるためには、動いてなければならない」という誤った考え方を捨てることが必要になります。いわゆる「動き」と「働き」は違うというやつですね。

この「動くと働く」については、TPSの生みの親の一人である大野耐一さんの以下の言葉を述べられました。

よく動いても働いたことにはならない。働くとは工程が進み、仕事ができあがることで、ムダが少なく効率が高いことである。管理監督者は部下の動きを働きに変える努力をしなくてはいけない。

今やるべきことを、やるべき時に、やるべき量だけやる(JIT:ジャストインタイム)ということが、付加価値をつける「働き」であるのですが、こうした意識はどこまで共有されているでしょうか?

人の意識にこれがなくては、せっかくバッファーマネジメントを設けても、おそらく思ったようには機能してくれないでしょう。

人の意識改革

特に日本人は、往々にして、仕事を探してでもやろうとする傾向があります。今ちょっと手空きだから、こっちもついでにやってしまおう、どうせやることだし、早め早めに、といった具合に。

これは、ある程度勤勉な方ほど陥りがちな感覚なのではと思います。

ただこうした仕事の仕方は、生産現場においては特に、以下のようなことを引き起しがちです。

  • 今やっている作業が本当に今やらなければならないことか、監督者から判断がつきにくくなる(手待ちのムダを隠してしまう)
  • 不必要な仕掛を作ってしまい(作りすぎ・在庫のムダ)、それに伴う管理や運搬のムダを発生させる
  • 品質問題が発生したとき、それら仕掛のすべてが検査対象となる(品質のムダを悪化させる)
  • 品質問題が発生しても、数ある在庫で対処できてしまう場合もあり、真因の根本的な解決を遠ざける
  • 品質だけでなく、生産計画や人員配置といった部分の問題も覆い隠してしまう
  • 「忙しい」と言っててんてこ舞いしているのは、「依存と変動」で述べた今やらなくてはいいことまでやってしまったことも原因となっている

ざっと上げるだけでも、結構な悪影響が出ることが分かりますね。

前回のエントリー「DXという手段と、その導入目的に関わるお話」でも話ししましたが、いわゆる「システムを導入しても人の働き方が変わらなければ、システムの恩恵を受けることはできない」というやつですね。

そのためにチェンジマネジメントが必要になってくるのです。

チェンジマネジメントは、こうした変化における人の意識を取り扱う体系的な手法です。日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、変化を効率的に進めるためのシステマティックな方法を提供してくれる有益な枠組みとなっています。

全体最適を目指した大掛かりなシステム導入(DX)の際には、これからどんどん需要が高まってくるのではないかと考えています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は「全体最適を目指すシステムと意識改革」と題しまして、TOC(制約理論)とチェンジマネジメントの2つの側面から今後の企業の変革を考えてみました。

冒頭にも書きましたが、チェンジマネジメントなしには、こうした変革活動は成り立たない時代に来ているのでは? というのが持論です。

チェンジマネジメントは、特に海外でのカイゼン活動の展開・定着においては絶対的に必要な手法であると感じていました。その辺拙書「海外カイゼンを 成功に導く! 変革戦略 7つのチャプター」でも述べております。

チェンジマネジメント、そもそもTPSのような「左側通を右側通行に変える」ほどの変革には、絶対的に必要なものです。「生産方式」などという名前がついているがゆえに、生産の仕方をちょいちょいと変えれば効果が出るという誤解が、いまだはびこっているように思います。

DX導入だって同じです。プロセスや仕事のやり方(人の意識)を変えないまま導入する新たなシステムほど、危険なものはないのですが。

TOCにしろTPSにしろ、「流れ」を生むことを目標にしています。ただシステムが流れを作っても、人が障害になることも有り得るのです。

特に日本人は、一度作ったものを変えたがらない気質があると感じます。DX関連、いろいろ事例は出てきていますが、そうした現場でもこのチェンジマネジメント、ますます必要になるのではないでしょうか。

今日も読んでいただきましてありがとうございました。

ではまた!

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