サプライチェーン カイゼン事例 カイゼン ツールはこう使う
皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。
様々な国でカイゼン活動をサポートしている私ですが、最近手掛けたサプライチェーンのプロジェクトで、教科書のお手本かと思うほど、カイゼンツールがうまく機能したケースがありました。
使用ツールは、モノと情報の流れ図(VSM)、情報とプロセスの流れ図(Swim Lane)、PDPC(過程決定計画図)法など。
そこで今回は、この事例を追いかけながら、具体的にどのような場面でそれぞれのツールが使われたのかを見て行きたいと思います。
オフィス系のプロセス カイゼンを考えておられる方は、一読の価値ありです。
ワークショップと仮想空間作業
今回のケースは、かなり大掛かりなワークショップサポートのお話です。
売上が大きなアカウントの、流れ化(そしてコスト削減)がその目的。
まずはモノと情報の流れ図(VSM)のワークショップ、そしてさらにそこから発見された問題点を、いくつかのプロジェクトとして走らせる、というおおざっぱに言うとこのような二本立ての進行となっておりました。
VSMもよくある局地的(本当は良くないんですが)なものではなく、今回は本当にエンド トゥー エンド(EtE)の、お客様から始まりお客様お届けで終わるバリューストリーム(Value stream)全体をスコープとするもの。つまり情報を扱うエリア、倉庫、生産ラインから完成品出庫までがカバーされているということです。
ところでご存知のように、我々は今出張ができません。こうしたサポートもすべてオンラインで行うことになります。
加えて現地もCOVIDの影響により、チームが実際に集まっての作業というのがかなり制限されている状況となっておりました。
こうしたバーチャル カイゼンの難しいところの一つは、仮想空間での作業スペースの操作性の悪さです。今回もこれには本当に泣かされた。
普通であればサクサク書いて、切って貼って、付箋紙であーでもないこーでもないとできる作業が、矢印一つ書くのに四苦八苦です。
始めはGoogle spreadsheetを使ってうまくいかず、Google slideへ移行しましたが、これもこうした作業には不向きでした。あんま文句言っちゃいいけないんですけどね(笑)。
本来であれば、こちらの仮想空間ホワイトボード「Miro」(ミロ)を使うのですが、たまたまこのタイミングで私のライセンスのアップグレードがもたついてしまい、残念ながらGoogle機能で行うことになってしまいました。
こういう仮想空間作業場は、オンライン ワークショップには欠かせないアイテムになってきましたね。いずれも本格的な使用を考えるのであれば有料になりますので、費用対効果を考えて導入されるのがいいかと思います。
でも出張しない分の費用をこちらに回してでも、導入したほうがいいと私は思います。作業にかかる時間がまるで違ってきますので。
問題解決の流れ
さて実際の流れです。VSM作成から、今回のサプライチェーンのプロジェクトが目指した目標までどう到達したのか、順を追って見てみましょう。
VSM作成
工場の最も売り上げの大きい製品群のラインを選び、モノと情報の流れ図(VSM)を書いてもらいました。もちろんPQPR分析を使っての優先化であり、同時にそれぞれ製品が流れる工程も明らかにしてもらっています。
その後、皆さんで話し合って、問題を抱える工程やエリアを探し出してもらいます。
今回は情報に関わるエリア、購買や計画、倉庫の代表者も参加していますので、VSMを見ながら現状の問題点が何なのかを話し合ってもらいました。
倉庫が抱える問題として、
- 材料在庫が多すぎる
- ハンドリングの手間とコスト(借りている倉庫含め)
があげられました。
購買側の皆さんは、そもそもそのような状態を知らない。普段自分たちの仕事に集中していて、後工程(=お客様!)が自分たちの仕事の結果によって、どう影響を受けているのかなど、考えてもみなかったというのが現実です。
始めは自分たちの仕事の正当性を主張していましたが、全体最適とは何か、流れを作るためには、ということをしっかり説明すると、次第に部署間の垣根を超えた作業の大切さを理解し始めます。
問題があるということを、全員が「問題として認識した瞬間」です。これがあって初めてカイゼンは成り立ちます。
要因と真因、現状とあるべき姿
特性要因図(Fishbone)で、なぜ過剰在庫が発生するのか、その要因となりそうなものを書き表していきました。ブレインストーミングですね。
そこからまたチームで最も影響を与える要因となりそうなものを選んでもらい、今度はなぜなぜ分析です。
「なぜ要因としてみられる症状が起きているのか」、真因を見つけ出しました。
そうしましたら今度は、その真因に対しての解決策(Solution)を考えてもらいます。またブレインストーミング。出てきた案もチームで重みづけをしてもらって最適案をチョイスします。マトリックス図法の出番でした。
それと同時に、選んだ製品群の現在の受注・購買プロセスをフローチャート化してもらいました。情報とプロセスの流れ図(Swim lane)を使用します。
どういう流れになっていて、どこに問題点があるのか、チームの皆さんで同じ世界を共有するためにも、この作業は欠かせません。
ついで「どうあるべきなのか」の未来のプロセスも書いてもらいます。ここにはPDPC法の要領で、最も楽観的なプロセスに潜在的な問題への対処法を組み入れながら書いていきます。未来図Swim lameの出来上がりです。
現状どこに問題があって、未来図でどうなりたいのかを明らかにする。その間にあるGapが「問題」であり、今回のプロジェクトで埋めなければいけないターゲットになっていきます。
深堀り~具体化とSOP
こうして自分たちの現状と行く先をはっきり理解しあって、問題解決を進めます。
さらに先ほどのSwim laneの問題のある個所(今回の場合は発注量見直しの工程)を、深堀り(Deep dive)していきます。
そもそも不完全な工程ですから、今回「誰が、いつまでに、何を、どのようなシステムを使って」ということを明らかにしていかなくてはいけません。いわゆるSOP(Standard Operating Procedures:標準作業手順書)を作らなくてはいけない。
ここで第2レベル、深堀りのSwim lane作成となりました。
カイゼンの過程ではこのように、同じツールを深く掘り下げるたびに使用するのはよくある光景です。
「今ないプロセスを書く」わけですから、ここにもまたPDPCの考え方を適用していきます。さらにここで皆さんにやってもらったのが、「Output」の基準(Criteria)をはっきりさせる作業でした。
以前も何度かお話ししましたが、海外では「後工程はお客様」という考え方があまりありません。経験上、そう説明してもピンと来ていないことが多いです。
今回も、何度も何度もこのこのコンセプトを説明し、理解してもらうよう努めます。どんなプロセスも、何かしらのインプットを、そこでしかできない加工を行って、次工程へ渡すことによって付加価値を作っていきますよね。
そしてそのアウトプットの「品質」を決めるのは誰かというと、これが後工程になるわけです。
今回の場合で言えば、在庫管理の新たなプロセスで、決められた手順が、決められたように、停滞なく進むためには、この自らの仕事のアウトプットの要件設定(Criteria)が不可欠。
そして今、プロセスに関わる全ての部署の人間が一堂に会して作成しているわけですから、こんなにベストなタイミングはありません。そのためのVSMですしね。
自分の後工程に当たる人と話し合って、どのような情報が抜け・漏れなく届けば、お客様(後工程)は滞りなく仕事を進められるのかを明らかにしていきました。
これはシックスシグマで言うところのSIPOC分析であるし、トヨタカイゼンで言うところの「自工程完結」からの考え方になります。
こうして、バーチャル作業の操作性に泣かされながらも、VSM、Swim lane、PDPC、SIPOC、自工程完結などのカイゼンツールを重ね合わせながら、在庫管理システムの構築にこぎつけました。
ちなみにこのチーム、作業のあるべき姿(未来図Swim lane)やSOP Swim Laneを書くことで、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の可能性にも着目し始めます。
達成
ということで、チームの皆さんは、新たな在庫管理の仕組み(Management system)を構築するという、当初の目的を達成いたしました。
最終日には、サプライチェーンの管理者からも承認をもらって、実際に試行(Pilot run)に入ります。
ワークショップ内で行えたのは、いわゆる構築(Ground work)までですから、実際に活動してみる中で、不具合を調整し、より良いものにカイゼンしていくことになります。
またいくつかのプロセス変更に伴い、お客様からの承認を得なければならないことも、アクション アイテムとして残っていました。
RPA部署と実際の導入を目指した活動も控えていますから、まだまだやることはあります。ですがチームの皆さん、カイゼン ツールの目的やその意図をしっかり受け入れてくれて、本当にありがたかった。
素直に取り組んでくれるというのは、カイゼンの重要な資質の一つになります。
経営層も、もちろん実行して実際の結果を待たなければいけないことは理解しながらも、チームの成果をたいへん喜んでいました。
今回のケースは、カイゼン ツールがおもしろいほどうまくはまった事のほか、部署間の垣根を超えた活動(Cross functional team)となったところが特筆すべき点でしたね。
こうしたコンセプトがしっかり根付いて行けば、彼らはもっと先へ進めるはずです。今後もサポートを通じて変化を見ていきたいと強く感じた事例になりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「サプライチェーン カイゼン事例 カイゼン ツールはこう使う」と題しまして、オフィスや情報エリアのカイゼン プロジェクトの成功事例を追いかけてみました。
VSMやSwim laneというツールの持つ特性が、いかんなく発揮された例でしたね。
また「後工程はお客様」というコンセプトもしっかり伝えきれたケースになりました。
余談ですが、Swim laneとPDPC、SIPOCはかなり有効に重ね合わせられます。私は常々、いわゆるカイゼンや問題解決のツールを、重ね合わせて使うことを目指していまして、今回はそれがきれいにはまった嬉しい事例になりました。
指導しながらのトライ&エラーというのも、ままあります(笑)。
皆さんもぜひ、こうしたツールやフレームワークを重ね合わせて、自分独自のモノへと進化・カスタマイズさせていってほしいなと思います。それがプロフェショナルです。
効果もより大きくなっていくと思いますよ。
今日も読んでいただきまして、ありがとうございました。
ではまた!
RPAにできること、できないこと。