制約理論(TOC)とスループット会計 脱規模の経営へ

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皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。さて今回は、制約理論(TOC)とスループット会計についてまとめてみました。

スループット会計とは何なのか、従来の会計と何が違うのかの説明です。企業の目的である、「お金を儲け、存続し、社会に貢献する」ための正しい指針を与えてくれるのがこのスループット会計です。

それはまた、我々が正しいカイゼン活動を行うためのガイドとなるものでもあります。トヨタ生産方式の原点である「脱規模の経営」とも絡めてお話ししていきましょう。

制約理論(TOC)とスループット会計

制約理論(TOC)とは、1984年にエリヤフ・ゴールドラット博士によって提唱された経営理論です。TOCは、企業のあらゆる活動には、必ず制約があり、その制約を特定し、改善することで、企業の利益を最大化することができるというものです。

またスループット会計は、TOCに基づいて開発された会計手法です。スループット会計では、売上から直接材料費を差し引いたものをスループットと定義し、スループットから固定費を差し引いたものが利益となります。
スループット会計では、伝統的な会計手法では無視されがちな全体最適化を重視することで、企業の利益を最大化することに重点を置いています。

TOCとスループット会計は、すでに製造業を中心に多くの企業で導入されており、企業の利益改善に効果を発揮しています。

 

スループット会計、より詳しく

より詳しく確認してみます。

スループット会計は、企業の業績を評価するための管理手法です。この手法では、企業の利益を増やすために、制約となる部分を重点的に考えます。

制約とは、企業の中で生産や業務のスピードを遅くしている要素のことです。つまりボトルネックですね。
例えば、工場の生産ラインで一番作業が遅い工程や、商品の製造に必要な特別な機械=生産キャパシティの少ない工程などが制約です。

スループット会計では、この制約を解消することで利益を増やすことを目指します。具体的には、制約工程のキャパシティを上げていくことで生産や業務のアウトプットのスピードを上げ、利益を増やしていく感じです。

ちなみに制約やボトルネックといっても、それは忌むべきものではなく、むしろ「希少なリソース」なのだから、それを積極的にサポートしていこう、というのがそのコンセプトになります。

また、スループット会計では、利益を評価するための尺度として「スループット生産性」と「資産投資スループット率」というものを使います。

  • スループット生産性:生産性の高さを示す指標
  • 資産投資スループット率:資産の有効活用度を示す指標

これらは従来の会計が与える見せかけの生産性を払拭し、企業に真の利益をもたらす経営指標となります。

 

スループット会計の実践による経営的メリット

では次にスループット会計の実践による、経営的メリットに関して見ていきましょう。

儲けの最大化

スループット会計は、キャッシュフローの増大による金儲けを基本としています。スループット、業務費用、資産残高という三つの業績評価尺度を取り込むことで、儲けに直結する指標を明確にします。これにより、企業の目的であるお金を儲けることに貢献することができます。

仕組みとマインドセット

スループット会計を実践することで、企業は儲かる仕組みを社内に構築していくことができます。つまり、正しい経営指標から正しい選択ができるようになるということです。

またこうした考え方が社員全員の行動様式や意識を変革することにつながっていきます。これにより、収益を飛躍的に拡大することが可能となります。

業務改善や戦略策定の支援

スループット会計は、企業の業務改善や戦略策定を支援するための業績評価尺度として活用されます。何をすれば儲かるのか、帳簿上の値ではなくキャッシュに焦点を当てていることから、最も儲かる選択をすることができるようになります。
現在の環境変化に最も適した管理手法として、経営指針となっていくのです。

 

従来の会計が陥りがちな、帳簿上の見せかけの数値ではなく、キャッシュという企業存続に最も必要なものに焦点を当てる。そしてその最大化に組織全体で取り組むために何をすべきかを考え、実践に移していけるのがこのスループット会計の大きな特徴です。

いわばトヨタ生産方式の「売れるものだけを、ノンストックで、できる限り短いリードタイムで作る」という思想を、会計面から支える考え方となっているのです。

 

従来の管理会計とスループット会計の違い

それではここで、従来の管理会計とスループット会計では、何が違うのかを簡単にまとめてみます。

従来の管理会計

  • 費用中心のアプローチ:費用の発生源や費用の削減を重視する
  • 部門別の予算やコストセンターを設定し、それぞれの部門の費用を管理する(部分最適化の助長
  • 利益を増やすために、販売価格の引き上げやコストの削減を行う
  • 製品やプロセスの改善には、コスト対効果分析やROI(投資収益率)などの指標を使用する

また従来の管理会計は、

  • 計算に大変な時間と労力がかかる
  • 現場管理者の努力に役立たない
  • 誤った意思決定を導く

とされており、特にジョンソンとキャプランが著した「レレバンス・ロスト」では、管理会計が適切な情報を提供できなかったため、誤った意思決定が行われ、アメリカ経済が凋落したとまで言われております。

 

スループット会計

  • スループット中心のアプローチ:売上を最大化することに重点を置く
  • 制約(ボトルネック)を特定してその能力を最大化することで、全体最適を追求
  • スループット(売上から直接材料費を差し引いた値)を重視し、それを改善するための施策を検討する
  • スループットの改善によって利益を最大化することを目指す
  • スループットの計測や制約の特定には、プロセスフローマッピングなどのツールを使用する(カイゼン手法のビルトイン)

このようにスループット会計は、従来の管理会計と比べて、よりビジネスの本質に焦点を当て、売上を最大化するための施策を追求します。そのため、従来の管理会計よりも効果的な意思決定を行うことができるとされているのです。ちなみに、制約条件に的を絞ったカイゼンができることからで、導入後3カ月で成果が得られる、とも言われております。

 

『脱規模の経営』とTCO/スループット会計

ここでこれらTOCやスループット会計とTPS(トヨタ生産方式)との関連性について確認してみます。

TPSの生みの親ともいわれる大野耐一氏は、その著書「トヨタ生産方式」の中で、「脱規模の経営」という考え方を展開しています。

「脱規模の経営」とは、大量生産や規模の経済に頼る経営手法から脱却し、効率性や生産性を向上させるための取り組みです。

簡単に言えば、「お客様が欲しいと思うものを、欲しいと思われた時に、欲しがられる分だけ作り、最短でお届けする」にはどうすればいいのかを追求していく生産の仕方です。

これはそのまま、JITと呼ばれる「必要なものを必要な時に、必要な分だけ作る」という考え方に至るのは自明のことですね。

こうした考え方を実践していくために必要なのが、いわゆるカイゼン(継続的改善)活動になるわけです。生産現場や業務プロセスを見直し、あらゆるムダを排除していく。目指すは決して停滞が起こらない「流れで作る」生産体制一個流し生産が最速であることは、すでに多くの研究結果が証明していますね。

何度も申し上げてきたように、在庫もまたムダの一つ。作りすぎてしまうがゆえに発生する在庫のムダは、長いリードタイムを引き起こし、上記のような思想の真逆を行く状態を引き起こします。

そしてこの作りすぎ・在庫のムダは、流れるように生産できないからこそ起こるのです。生産のキャパにばらつきがあり、ボトルネックがあるにもかかわらず、部分の最適化だけを目指した生産の仕方を続けるがゆえに、そこかしこと在庫が発生、すなわち売れないものを作ってはキャッシュフローにダメージを与え続けているのです。

あらゆるカイゼンは、このボトルネックの解消を目指すものでなくてはなりません。一つのボトルネックを潰せば、また次のボトルネックが現れてくる。それを潰してまた次へと繰り返すことで、ついには一個ずつ流れで作る境地に達することができるのです。

そのための大きな図を描いているのがTOCであり、活動に経営的な指針・指標を与えてくれているのがこのスループット会計になるのです。

余談ですが、ボトルネック解消に貢献しないカイゼンは大変危険です。かのピーター・ドラッカーも、「間違った問題に対する正しい答えほど、害を与えるものはない」と指摘しております。

カイゼン活動自体は当然正しいことです。ですが間違った問題、すなわち経営的に意味のない箇所に適用したところで、意味がないどころか、害悪となるということも覚えておかなくてはいけませんね。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は「制約理論(TOC)とスループット会計 脱規模の経営へ」と題しまして、スループット会計や、TPSとの関連性を考察してみました。

簡単で、しかも正しい判断を下す手助けとなるスループット会計は、制約を潰すという制約理論を裏打ちするものです。

そしてそれは、まさに理論として、TPSという日本が誇る生産方式を実践するうえでも大きな手助けをしてくれるものになっています。

TPSは完成されすぎているがゆえに、導入が難しい。あるいは、目立った手法(カンバンなど)に魅せられて、そこだけを取り出して導入し大火傷を負うなどということも多々発生しました。

まずはTOCを理解し、スループット会計でキャッシュの増加を確認しながら、愚直にボトルネックを解消していくことです。そうやって何度も何度もPDCAを回し「継続的」に改善していくことで、流れで作ることも可能になるでしょう。

今日も読んでいただきましてありがとうございました。

ではまた!

 

参考文献

大野 耐一 . (1978). トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして. ダイヤモンド社.

ゴールドラットエリヤフ. (2001). ザ・ゴール企業の究極の目的とは何か (三本木亮, Trans.). ダイヤモンド社.

コーベットトーマス. (2005). TOCスループット会計 (佐々木 俊雄 , Trans.). ダイヤモンド社.

大久保 篤. (n.d.). スループット会計の実践. https://s8994a148fb472f33.jimcontent.com/download/version/1367388895/module/5008448972/name/%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%B5%8C%E5%96%B6%E6%94%B9%E5%96%84%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%83%E3%83%88%E4%BC%9A%E8%A8%88.pdf

読みやすいし、わかりやすい本です。

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