タイムスタディと動作の経済(PTS法)

皆さんこんにちは! 今日もどこかでカイゼンサポート、Kusunoko-CIです。

さて現地現物ができない中、リモートで海外の現場改善のお手伝いをする昨今。現地に行けなくなって早2年、その間多くのワークショップを、ネット回線をつなぎながらサポートしてきました。

だいたいどんなワークショップも、タイムスタディ(時間観測)というのは付いて回りますので、準備段階でのトレーニングでも、必ずやり方や考え方を説明します。

今回は、タイムスタディでよくみられる間違いと、動作におけるムダやそのカイゼンにまつわるお話をしてみたいと思います。

タイムスタディあるある

伝言ゲーム

作業時間のみ記録

タイムスタディでよくみられる間違いとして、「作業時間のみ記録している」というのがあります。

これは観測者が、作業者を追いかけ時間を測っているのですが、実際の作業と思われる時間のみ記録する、という現象。

なので作業者の探す、待っている、歩いている(8つのムダ)などの付加価値のつかない作業が記録されておらず、おかしなデータが出てきます。

付加価値率が妙に高い。

まずはこのタイムスタディの意味・目的をきちんと理解しもらわなくてはいけません。ありがちなケースとして、タイムスタディを教えた人間が、また誰か別のメンバーに頼んでやらせたようなとき発生しがちです。伝言ゲームのようになって、かつ本質も伝えずにやらせてしまう場合です。

トレーニングは、出来る限りチームメンバーにも参加してもらうようにしたほうがいいですね。いわゆるGage R&Rのように、計測の仕方・計測器を正確にしておく必要があります。

ムダをムダと認識しない

これはビデオで一連の作業を記録した後、作業の要素を分解していく過程で起こります。

我々の行う作業は一般に

1. 付加価値が付いた作業(Value adding
2. 付加価値がつかない(Non-value adding)
3. 付加価値は付かないが、なくせない(Non-value adding but Necessary

の3つに分けられます。信号機のように色を分けます。

ピザの焼き工程でいうなれば、実際に付加価値がついているのはピザを焼いている時間(1番、加工時間)のみで、そのために準備している時間は、無くせはしないが付加価値は付いていない(3番)ということになります。当然焼くために歩いたり探したりしていれば、それは純粋にムダ(2番)です。

ただこうした分類分けの意識が養われていないと、観測した作業の大半が1番の付加価値のついたものにされてしまいます。

トレーニングの段階で、8つのムダと共に、きちんとこの分類分けを教えておくことです。

またこちらで一度、観測データの分類分けやってあげるのも有効ですね。撮影した作業のビデオを、ネット経由でもらいましょう。

そして地道にビデオ分析をします。歩いている、探している、手に取ったなど、最短で2~3秒くらいの動作まで分類分けして、それぞれに色をつける。

実際のタイムスタディの例。これは結構付加価値のついた作業(緑)が多い方です。

そしてグラフにして、付加価値ついているグリーンの作業はこんなに少ないですよ、と現物で見せてあげます。こうするとだいたいの場合は、やり方を飲み込んでくれますね。

まさに「やって見せて」の精神です。

動作の経済と作業者の声

Photo by Remy Gieling on Unsplash

カイゼン活動の基本に、「大きなものは小さくし、小さなものは大きく拡大して見る」というのがありますが、このタイムスタでディはまさに「大きなものを小さくしていく」作業です。

基本的に工程は、単位作業、要素作業、そして動作というところまで分解していくことが可能です。

動作はほんの何秒、時にはコンマ何秒という場合もあるでしょう。

このコンマ何秒など、軽視してしまいがちかもしれませんが、作業者が何度も何度も行えば、結局は大きなムダになっていきますよね。

動きによる体への負担だって大きい。

こうしたムダな動作を、どうやって取り除いていくかがカギなのです。

動作の経済というお話は以前もしましたが、作業カイゼンでは

  • 工具や材料は作業習慣が形成されるように定位置に置く
  • 工具や材料は作業者の周辺の出来るだけ前面近くに配置
  • モノの移動には上下移動をさけて水平移動
  • モノの移動には重力を利用
  • 材料・工具は最も都合のよい位置に置く
  • 歩行のない作業では、作業者にはできるだけ椅子を与える
  • 机と椅子の高さは作業の性質や、作業者の身長に適したものとする
  • 作業の性質に適した採光や照明を与える

のような点に気を付けると、作業者にムリ・ムラ・ムダの負担が少ない動作が取れるようになります。

動作の経済の原則は、まだまだたくさんあるのですが、これら8つのことを意識するだけでも、作業台やその周辺のレイアウトなど劇的に変わってきますので、ぜひ一度確認してみてください。

またその際、必ず動作の主体である作業者と共に考え、変更を行います。

実際に作業を行わない人間には見えてこないことというのが必ずあります。そしてそれを身をもって知っているのが作業者さんたちです。

良かれと思ったレイアウトや冶具の変更も、彼らがやりづらいと感じてしまったら、残念ながらそれは使われません。

あるいはたった一つ作業が増えるだけ、と思う手順変更も、実際にやる側からすれば何百・何千回と繰り返す可能性だってあるわけです。

作業者の声を聴きながら、カイゼンを行いましょう。なのでワークショップのグループわけでも、必ず作業者さんが何名かメンバーとして入っていることが望まれます。

時間は動作の影」です。時間を短くするには、動作を変えていかなくてはいけません。

動作の標準時間 ムダはいたるところに

Photo by Olia Gozha on Unsplash

人の動作にも標準時間というものがあります。

既定時間標準法(PTS法; Predetermined Time Standard system)と呼ばれる研究成果で規定されていて、これらも大いに参考になります。

PTS法の中でも、MTM(Methods Time Measurement)法とWF(Work Factor)法という二つが有名ですが、両者とも基本的な動作時間を決定するものとして

  1. 使用する身体の部位
  2. 動作距離
  3. 取り扱う重量または抵抗
  4. 動作の困難性(人為的調節)

4つの要因を挙げています。

このPTS法のMTMでは例えば、歩く際の1歩は0.5秒と定められていて、10歩歩けば5秒がムダになっていることになりますね。

そしてだいたい10歩どころの話ではないはず。ここにも大きな可能性が潜んでいます。動線分析には、合わせてスパゲッティチャートなどを描くのもいいでしょう。

あるいは手の動き。

20㎝手を伸ばせば約0.28秒、30㎝で約0.34秒と規定されています。このたかだか10㎝の違いが、約0.06秒の違いを産むことになりますね。

0.06秒なんて大したことないと思うかもしれませんが、作業者さんが日に100回行えば約6秒の積み重ねです。

年間200日働いたとして、1200秒=20分の差です。そしておそらくは、この10㎝、いたるところに潜んでいますからね。

ちなみにトヨタだと「一歩一秒一円」と意識づけされています。

このようにムダはいたるところに潜んでいますが、ムダをムダと認識できなければそれはないものと同じになってしまいます。

大野耐一さんの「問題がないというやつが、一番の問題だ」という言葉にもありますね。

ぜひレイアウトや動作のカイゼンを行って、ムダのないリーン(Lean)な生産方式を目指してほしいと思います。

まとめ

ムダというのは、見ようとしないと見えてこないものです。

巧妙に隠れてしまいます。それを明らかにして、解決するのがタイムスタディの役割です。見える化することですね。

まずは会社・工場の全員で、何がムダなのか、付加価値をつけるとはどういうことなのかの認識合わせをしましょう。

仕事におけるムダは、誰もハッピーにしません。

作業におけるあらゆるムダは、作業者の体と心の負担です。

会社側としては、なんの付加価値もついていない「動き」に賃金や経費をかけていることになります。

そして消費者は、そのコストを上乗せされた価格で購入することになってしまいます。

当然環境にもよろしくないことが多いです。

トヨタ生産方式(リーン生産方式)とはつまるところ、ムダの排除です。徹底的に見える化してどんどんカイゼンしていきましょう。

今日も読んでいただきましてありがとうございました。

ではまた!

基本的なことはすべて書かれています。

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