完成品在庫の量を決めよう 在庫計算式

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皆さんこんにちは! 今日もどこかで改善サポート、Kusunoko-CIです。
風邪などひかれていませんか? 私は息子が幼稚園から、鼻水と咳という「お土産」を持ってきてくれまして、今週はなかなかきつい1週間になりました。
さて、皆さんの工場は、在庫の決め方に何か明確な規定はありますか?
在庫は、トヨタ生産方式では「罪庫」といいまして、出来ることならなくしてしまいたいものです。7つのムダのところでも以前少し説明しましたが、在庫というものは、経理上は資産と計上されてしまいますが、Leanのあり方から見ると、眠ってるだけの「金食い虫」ということになってしまいます。
そこで、今回は「完成品在庫の量を決めよう」と題しまして、適正な在庫を決める第一歩を踏み出すための計算式です。
この記事を読んで、ぜひその一歩を歩み出してみてください!
7つのムダの優先順位から、その見つけ方まで
完成品在庫の量 計算式
まず早速、完成品在庫の量の決め方ですが、以下のような計算になります。
サイクル在庫 + バッファー在庫 + 安全在庫 = 完成品在庫
さて、ではひとつずつ中身を確認してみましょう。
サイクル在庫
こちらサイクル在庫は、ある一定の期間に、どのくらい生産しなくてはいけないかの数字です。
タクトタイムの回でも説明しましたが、我々はお客様からのデマンドを常に考えなくてはいけません。

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例えば今、私の工場には、月当たり1000枚の注文がある「もちもちチーズビザ、全部のせSP」という冷凍ピザの商品があるとします。
これを20日という工場の稼働日で割ると、一日当たり平均生産量は、50枚ということがわかります。
ちなみにこの「もちもちチーズビザ、全部のせSP」のは、4日に一度、専用の小売り店へと配送されていきます。
ですので、
50枚 x 4日 = 200枚
がこの配送から配送までの「一つのサイクル」を満たすための「完成品在庫」として持たなくてはいけない数字になりますね。
4日間製造して、200枚出来上がったものは、4日に一度全部引き取られて、「チャラ」になるイメージです。
これを受注から配送までのサイクルを満たす在庫、「サイクル在庫」と呼んで、
一日平均生産量 x 1サイクルの長さ(配送間隔、ここでは4日)
で求めます。
タクトタイムとサイクルタイムってなんだ? What is Takt Time and Cycle Time?
バッファー在庫
次にバッファー在庫です。バッファー(buffer)とは「緩衝材・緩衝物」という意味です。
なんのバッファーかというと、「デマンドの振れ幅」に関する「緩衝材」になります。
例えば今、私の工場で上記「もちもちチーズビザ、全部のせSP」の実際のデマンドの振れ幅のデータを取りました(3か月)。
1回あたりの配送枚数(デマンド)は、平均すると確かに200枚なのですが、多い時で280枚になったり、少ない時で150枚をきったり、と結構ばらついています。
そこで、ばらつきの指標、標準偏差(SD)を求めてみると、37枚という結果が出ました。
少ない注文はなんとかなるとして、怖いのは注文量が上に振れた時です。急にはなかなか対処でいきない。
ここで、平均当たりの標準偏差である「変動係数」を考えます。
変動係数(CV)は、「標準偏差 ÷ 平均」ですから、この場合の変動係数は 37枚 ÷ 200枚 = 0.185
正規分布の考え方で、1SDには約68%、2SDの中に約95%のデータが入ることがわかっていましたね。
このデータで1SDは37枚。
今は2SD(95%)までカバーするバッファー在庫にしたいと決めたとして、
37 x 2 = 74
割ることの平均200枚で、0.37
37%の上振れに準備しておけば、95%程度の確率でバッファーがばらつきを吸収できる、ということです。ここでは200枚(サイクル在庫)の37%、つまり74枚が、必要な上乗せバッファー在庫、ということになります。
ここまで、サイクル在庫とバッファー在庫を足した値は、274枚。
もちろん、3SD、99%までカバーしたいという方もおられるでしょう。その時はSDを3倍した数を上乗せします。おかれた状況次第ですね。
シックスシグマってなんだ? サルでもわかるシックスシグマの成り立ち
安全在庫

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先ほどのバッファー在庫は、外的要因(お客様デマンドの振れ)に起因するものでした。
対照的に、こちら安全在庫はどちらかというと「内的要因」に関わるものです。
いつも確実に良品のみが、いかなる遅延もなくお客様に届けられているのであればいいのですが、現実にはなかなかそうは参りません。
トッピングがのってない、チーズの種類を間違えたとか、あるいは予期せぬ機械の故障など、いつでも起こり得ますよね。
また我々の、サプライヤーさんサイドの問題による欠品なども起こることがあるでしょう。
こうした内的な問題に対処するのが、ここの数値です。
どのくらいを見込んでおきますか?
ここでは過去の経験とデータから、20%ほどをこうしたトラブル対策として上乗せしておきたいと考えたとします。
先ほどのサイクル在庫と、バッファー在庫を足したものに、この20%(0.2)を掛け合わせます。
ここでの具体例では、
(200枚 + 74枚) x 0.2 で54.8枚 ≒ 55枚
55枚の安全在庫を持つことに決めました。
完成品在庫は?

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完成品在庫は、上記3つの合計で、
200枚 + 74枚 + 55枚 = 329枚
となります。霧のいいところで、330枚にしておきますか。
いかがでしょうか?
多いと感じるでしょうか、あるいは妥当だと思われるでしょうか?
私は正直に言うと、「多いなー」と感じてしまいます。
とはいえ、全く何もないところから、完成品在庫の適切な値を出せと言われても、なかなか厳しいものがあるでしょう。そして数字が出たときに、周りをどう納得させるのか、という点もありますよね。
その点こちらで紹介した方法であれば、
- 平均値を基準として使っている
- 補充までのサイクル(リードタイム)も考慮に入れている
- 過去のデータからばらつき(標準偏差)だして、2SD(95%)までカバーするという理屈がある
- 予期せぬ(内的)問題も、データと経験上カバーできている
ということで、ある程度の説得力があります。
ただ、基本的にこうした計算で求められた基準在庫というものは、大きくなってしまいがちのようです。
あるいは、こうした計算には季節性なども考慮に入っていないですしね。
ですので、おすすめはまずはこうした数値を出してみて、実績データを見ながら少しずつ減らすように調整していくことです。
ものすごく正確か、と問われると「?」ではありますが、まずは目安として、管理の第一歩としてみるといいでしょう。見える化ですね。
トヨタカイゼンと見える化
注意点 正規性
ちなみに今回のデータ、変動係数を求めるに当たり、実は確かめなくてはならないことがあります。
それはこのピザの需要データが、正規分布になっているのかどうか、という点です。
こちら残念ながらエクセルでは計算できません。エクセルを使ったツールというのはずいぶん販売されていますが。
私たちは、「Minitab」というとても便利な統計ソフトを使っておりまして、これはやり方さえ分かっていれば、こういうめんどくさくて難しい計算も、瞬時に行ってくれます。
ちなみに今回のデータは、難しい説明はしませんが、P値が0.906で0.05より大きくなっていますから、「データは正規分布に従わないと結論付けるだけの十分な証拠はない」、つまり正規分布と考えていいですよ、という解釈になっています。
変動係数も使ってOKということになります。
詳細なデータ分析を行う際には、こうした統計ソフト、あるとなかなか便利ですよ。いろいろ出回っていますから、会社で購入されてもいいのではないでしょうか?
まとめ
在庫の関しては、ネット検索でもいろいろな計算式を見つけられます。
しかしながら、ここにご紹介したものに限らず、ものすごく正確な数値を出してはくれないようです。あくまで目安。
とはいえ、改善のアクションを取るに当たり、何らかの基準となるものが必要になります。こうしていったん基準ができれば、次に目標を設定することもできます。
そこにGapが生まれる。
その現状とあるべき姿のGapを小さくしていこうとするのが、カイゼン活動ということになりますね。
今回のケースですと、
- そもそもこのデマンドの「振れ」は平準化できないのか
- 配送が4日に一回というのは理にかなっているのか(もっとこまめに配送するとか)
- 1日当たりの生産性はどうなのか
- 在庫管理と見える化はどうするのか
- 安全在庫の係数15%に、改善の余地はないのか
などということも考えていくきっかけになるでしょう。
ちなみにこの計算式は、もちろん完成品在庫だけでなく、部品など他の在庫の算定にも使えるものですので、ぜひ活用してみてください。
今日も読んでいただきましてありがとうございました。
ではまた!
『平準化』するとは? すべてはトップの覚悟